8年間、公私ともにパートナーだった人に新しく良い人ができました。仕事はそのままで、と言われて続けています。彼との時間は今も大切ですが、彼が他の人を大事にしていることは、とてもつらいし切ないです。仕事は芸術系で、2人だから創り上げてこられたもので、すぐにはやめません。でも、寂しさを胸に仕事に向かい、次のプライベートの相手をみつけるのは何だか違う気がするのです。(47歳・女性)
芸術関係のお仕事をされていると書かれていました。なので、同じ仕事をする者としてお答えしたいと思います。
わたしにも似た経験があります。また同じような経験を聞くことも少なくありません。少しずつ薄れてゆくこととしても、あなたの内側から、その痛みが消え去ることはないと思います。それは「失う」ことの痛みです。あなたは、人生の半ばを過ぎつつあります。人生の先輩として、少し書かせていただくなら、これからあなたはいろいろなものを失ってゆくことになるでしょう。パートナーを失うことはその始まりにすぎません。
若さを、美しさを、健康を、感覚の鋭さを、あなたは失ってゆくでしょう。では、それは、耐えられない苦しみしか生まないのでしょうか。そうではないことをあなたは知っているはずですね。なぜなら、あなたが従事している「芸術」という営みは、「失う」ことが苦しみだけではないことを、人間に伝えるために存在しているからです。
一枚の絵、一つの曲、一篇(いっぺん)の詩、一冊の小説、どれも作り手たちが、何かを失うこととひきかえに作り出されたものばかりです。喝采を受けず、冷たく無視されても、作り手たちは後悔しないでしょう。なぜなら、作り出すこと自体が、彼ら自身への幸せな贈り物でもあることを知っているからです。あなたもまた、ずっと前からその世界の住人だったではありませんか。
(作家 高橋源一郎)